着物の基礎知識

訪問先でのマナー

マナーとは、周囲の人に不快な思いをさせることのないよう、相手を思いやり、敬う気持ち、相手への心遣いを表したものです。着物は、着ているだけでも視線を集めるものなので、一挙手一投足が注目されてしまうこともしばしばです。着物を着てお出かけする時は着物のきちんとしたマナーを踏まえて、より美しい立ち振る舞いをしたいものです。事前にしっかりマナーを知っておけば、いざという時も自信を持って立ち振舞うことができます。そして、美しい立ち振る舞いは、着物をより一層素敵なものに見せてくれます。

玄関先では

コートやショールを着ている場合は玄関先で脱ぎます。脱いだコートを畳み、手荷物と共にまとめて持ちます。コートは手にかけても構いません。

衿元や、おはしょり、帯など確認して、身なりを整えてからチャイムをならします。玄関に入ったら、上り框の脇にじゃまにならないよう荷物を置き、お臍に力を入れて腰から折るようにゆっくりとお辞儀をしましょう。

お辞儀の際、すぐに上体を起こさず一度静止をし、ゆっくりと元に戻すと美しく、心のこもったお辞儀になります。先方より深くお辞儀をしてご挨拶をします。

履き物について

玄関に入り、ご挨拶を済ませたら、前向きのまま、履き物を脱ぎます。
お尻を先方に向けないようにしましょう。

つま先を浮かせ、片足ずつかかとに重心をかけ、かかと側に滑らせてつま先を鼻緒の前壺から外します。上り框に上がり、向き直りから屈んで、左手で右の袂を押さえ、右手で履き物を揃えます。

お帰りの際に履き物を履く際には、上前を少しあげて、片足ずつ前壺に滑らせ、親指と人差し指を前壺にはめます。

座り方(床に直接座る場合)

床に座るときは、右足を少しだけ後ろに引いて、右手で着物の前側をつまんで少しだけ引き上げておきます。
こうすると、膝から上に余裕ができ、座った時に着物が引っ張られてしまうことがありません。

そして、太ももの前に左手を添えながら腰を落としていき、右手で着物の前を膝から足首に向けて撫で下ろしながら床に順に膝を付けていきます。
この時、膝と膝の間はぴったりくっ付けないようにし、こぶしひとつ分ほど開けておきましょう。膝の裏側の着物にシワが寄らないよう、両手で左右に引いてすっきりとさせ、腰は両足の間に落とします。両ひざを浮かせるようにしながら着物の前裾を綺麗に整えて座り直します。

座り方(椅子に座る場合)

椅子に座る場合、着物の裾、袖、帯に気をつけましょう。軽く着物の上前を引いて膝に余裕を持たせ、お尻の下から着物をなでるようにして腰かけます。振袖は袖が長い為、床について汚れてしまうので注意が必要です。振袖の両袖は手に持って膝の上に重ねましょう。振袖のような立体的に締める帯は、帯がつぶれてしまわないよう、背もたれに帯がつかないように浅めに座りましょう。バッグを持っている場合は背と背もたれの間に置くと良いでしょう。お太鼓結びの場合、軽く背もたれを使っても大丈夫ですが、帯が潰れてしまわないよう寄りかかりすぎないように心がけましょう。ひざ下の後ろ側はひざの裏に押し込むようにします。浅めに腰かける際は、着物裾が垂れ下がって地面につきますので、ご注意下さい。

ご挨拶

ご挨拶する際は、礼の始めと終わりには相手と目線を合わせるのを忘れないようにしましょう。
正座でのご挨拶の場合、両手は体の前で手をハの字に置き、上体を傾けてお辞儀をします。

椅子でのご挨拶の場合、お辞儀に関してはその時の状況によりけりだと思いますが、お辞儀の際は立つ方が良いとされています。
頭から腰までの上体を真っ直ぐにしたまま、ゆっくりと前に傾けるようにします。
ちなみに傾ける角度は敬礼(普通礼)では30度。
会釈にあたる軽い挨拶には15度、丁寧なご挨拶の最敬礼は45度です。
15度のお辞儀(会釈)軽いお辞儀です。会釈にあたります。

部屋の入退室、お茶を出す際等30度のお辞儀(敬礼)一般的な挨拶です。普通礼として行われています。
お客様を出迎える際や目上の人への挨拶時等45度のお辞儀(最敬礼)最も丁寧なお辞儀です。最敬礼は謝罪や感謝を伝えるときなど、改まった場で行います。

同時礼と分離礼お辞儀する際に「おはようございます」「本日はありがとうございます」等、お辞儀だけでなく言葉も発しますよね。お辞儀しながら同時に言葉を述べる「同時礼」と、まず言葉を述べてから、その後にお辞儀する「分離礼」があります。
分離礼は語先後礼(ごせんごれい)という、心が伝わる気持ちの良いおじぎとされていますので、こちら分離礼の方がより丁寧な印象を与えます。

立ち方(床)

立ち上がる時にはかかとを立てて、そのかかとの上にお尻をのせて、上前を押さえながら右足から立ち上がります。
少し内股気味に歩幅を狭くし、腕を肩よりも上にあげないことや、過度に上半身をひねらないようにしましょう。早く歩く時は右手をももの位置にそえて、裾がひるがえるのを防ぎながら歩きましょう姿勢は肩を落とし、上から釣られているように背筋を伸ばしましょう。普段より少しだけ動きを控えめにする事がポイントです。これで裾が広がったら、長さが変わってしまったり、胸元がグサグサになり襟元がだらしなくなる事が抑えられます。

手を伸ばす時

何か物を取る時は、物を取る手の袂(たもと)に片手を添えるようにすると美しく見えます。また、そうすることで、袂を引っ掛けてテーブルなどに触れて汚れてしまったり、物を倒してしまうことを防ぐことができます。お家の中にある突起した場所にも気をつけて。調度品は勿論の事、ドアノブや階段などの手すりなど、普段あまり気にしていない場所にも注意が必要です。

トイレ

よく生徒さんから相談されるのが着物を着ている際のトイレ問題です。

着物の裾を全て持ち上げたりしなければならないので、気をつけないと着崩れの大きな原因になります。
訪問先での滞在が長い場合、お借りすることになります。
訪問先のお手洗いがもし和式と洋式の2種類あるようでしたら、和式より洋式がおすすめです。お着物着る際は、下着にも気をつけてください。
お腹までしっかり上がるタイプの下着ではなく股上浅いタイプを選びましょう。帯に挟まれていないため比較的簡単に下ろせます。まずは袖の真ん中あたりを帯の上側に挟み込みます。着物の裾の褄先(つまさき)をしっかり持ち上げ、帯に挟み込んでいきます。クリップがあればクリップとめすると安心です。

その後、長襦袢、裾除けの裾も同じように両手で持ち上げ、帯に挟んで行きます。この時しっかりと挟み、落ちてこないように気をつけましょう。用が済んだら、帯に挟んだものを今度は裾除け、長襦袢、着物の順で下ろし、シワが寄らないように整えながら裾をおろします。

お手洗いの中でしっかりおろして、出てきたら鏡でチェックしておきましょう。


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